イベント 2020年1月26日 福岡

回復を応援し、受け入れる社会へ
2020年1月26日 福岡イベント

 著名人の薬物事件がニュースとして大きく取り上げられる昨今、「依存症」という言葉にスポットライトが当てられる機会も多くなってきた。一方で、言葉は聞いたことがあるものの「依存症」について正しい知識を持っている人はまだ少なく、誤解や偏見から依存症からの回復を阻んでしまうケースもある。厚生労働省はさる1月26日、啓発イベント「依存症の理解を深めよう 回復を応援し、受け入れる社会へ」を開催。会場の福岡三越ライオン広場には若者から年配の人まで多くの人が集まり、「依存症」というものの関心の高さが窺えた。

 この依存症啓発イベントの目玉は、これまで多くの依存症患者を支えてきた国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部長の松本俊彦先生、公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子代表、自らも薬物依存の経験がある俳優の高知東生さん、依存症啓発サポーターの古坂大魔王さんらによるトークライブ。危険ドラックで逮捕された過去があり、現材は依存症予防教育アドバイザーも務める元NHKアナウンサーの塚本堅一さんの司会のもと、「依存症」というものに対するさまざまな疑問や質問をテーマにして語り合っていく。

 まず最初に塚本さんが紹介したテーマは「依存症は病気ですか?」。これには松本先生が「病気です」と即答。医学的にも脳の感受性が異常に高まっている状態を依存症と呼ぶことを説明したうえで、会場の人たちにこのように訴えた。
「少し前まで、依存症というのは道徳心がない人たちだと思われていましたが、医学の発展により、厳しい罰を与えたり、強く説教をしても良くならない“病気”だとわかってきて、社会全体で支えた方が問題解決につながることがわかってきたんです。」
 田中さんも、「うつ病」がかつては「なまけ病」のように受け取られていた例を挙げて、社会の誤ったイメージを覆していくには、1人でも多くの人が「依存症」というものに関心を持ってもらうことだと指摘。「そのためには、明るく伝えることが大事。古坂さんにはぜひそれをお願いしたい」と、啓発サポーターの古坂さんにエールを送った。

 次のテーマは、「依存症は何に依存するのか?」。松本先生は、アルコール、薬物、ギャンブルというのが対象としては多くあると回答。そのなかでも最近、危険性を感じているのがストロング系チューハイだという。
「アルコールほど、その依存症の高さにもかかわらず、入手しやすく社会的に許容されているものはありません。そのなかでもストロング系チューハイは、高い度数のアルコールをビールのような勢いで飲めてしまうので、依存症になるリスクも高い」
 これらの他にも、仮想通貨やFXなどの金融取引でも同じような脳の変化が見られると注意を促す松本先生に、古坂さんから「スマホ」についての質問が寄せられる。「仕事柄、スマホでニュースやSNSを頻繁にチェックするが、どれくらい頻繁になると依存症になる恐れがあるのか」という疑問に対して松本先生は、「仕事などやらなくてはいけないことを後回しにしてスマホをいじったり、寝る時間を割いてまでスマホゲームをしたりと、日常生活のバランスが崩れているなら“スマホ依存”の恐れがある」と説明。古坂さんだけではなく会場の人たちも興味深く頷いていた。

 続いて、「依存症は個人の意志の弱さが関係しているの?」というテーマに変わると、こちらも松本先生は「関係ありません、人間の意志では太刀打ちできないもの」と即答。これを受けて田中さんも、薬物依存症に陥る人の中に、一流スポーツ選手や有名芸能人がいることを例に挙げて、このように訴えた。
「高知さんもそうですが、芸能人やスポーツ選手は自分の夢を叶えるため、すさまじい競走を勝ち抜いてきた意志の強い人たち。そういう人でもなってしまうのが依存症の怖さ。この問題は根性や意志と切り離してもらいたい」
 田中さんの言葉を受けて、高知さんは自身が薬物に手を出したきっかけを語り出した。それはまさしく「意志の弱さ」とはまったくの無関係で、むしろ「意志の強さ」が裏目にでてしまったような構造だった。

 高知県から上京して俳優としてひと旗あげようと思っていた高知さんは、ある時、尊敬する先輩が薬物を使用していることを知り、お前もやらないかと勧められてしまう。「人から酒をすすめられたら断るのは格好悪いこと」という土佐の気質があったことにくわえて、当時の高知さんは先輩からとにかくなんでも吸収してやろうと考えていた。つまり、どんなことをしても都会で成功するという「意志の強さ」から薬物に手をだしてしまったのだ。
 この話を受けて、松本先生は「高知さんと同じく、憧れの人からお酒を勧められて、それほど飲めない人が飲酒を重ねた結果アルコール依存症になるケースが多い」と述べ、大切な人との距離を縮めたいというところから依存症がはじまることもあると指摘。田中さんは、日本人の「協調性」を重んじる文化にも、依存症を生む土壌があるとして、子どものうちから「断り方」を教えていくことが重要だとした。

 依存症の理解を深める話が続くなか、古坂さんが聴衆へ向けて、「ここまで話を聞いてみたけど、依存症は他人事だと思う方、手をあげていただけますか?」と呼びかけると、何人かが手を挙げた。「すごく正直な反応だと思います。僕もそうでしたから」と古坂さんが述べると、田中さんも「私も同じでした」と大きく頷いた。
「依存症というのは社会生活が送れないようなダメな人がなるもので、会社に毎日ちゃんと出勤しているサラリーマンや、家事に追われる主婦の方とかがなるわけがないと思っていた。だから、自分には絶対に関係ないものだと思っていました」
 これは高知さんも身に覚えがあるという。自分が「病気」であることが受け入れることができず、回復の支援をしていた松本先生に対しても、「先生、俺は病気なんかじゃないですよね!」と食い下がって、依存症であることを認めるのに数週間かかった、とふりかえった。これらの体験談を受けて、松本先生は聴衆にこのように訴えた。
「依存症を他人事だと思わず、本人も周囲の人もこれを病気だと認める。まずはそれが依存症から回復する第一歩なんです」

 では、具体的にどうすれば依存症から回復できるのか。古坂さんは松本先生に対して「薬物依存症の人が刑務所に服役して一定期間、薬物を使用できない状況におかれることで回復をするものなのか」と質問を投げかけた。著名人が逮捕された際などに執行猶予よりも実刑をのぞむ声が出るなど世の中的には「常識」となっているこの考えを、松本先生は否定した。刑務所というのは、薬物がない環境なので、そこで使用しないというのはあまり意味がない。そのため、刑務所から出てすぐに薬物をまた使用してしまう人も多い。治療という意味では、薬物が手に入る環境のなかで、手を出さないようにしていくことが大切だという。意外な回答に関心を示す会場の人々に対して、松本先生はこのように訴えた。
「依存症は刑罰や説教では回復しません。また、家族の愛情だけでも支えられない。回復をさせるためには、正しい知識に基づいた具対的な行動を起こしていくことが大事です」
 「家族」の話をうけて、依存症啓発サポーターとして、「家族会」を訪問している古坂さんは、依存症の人たちを支える家族がどのように向き合っているのかということを報告した。
「みなさん、依存症者の家族をすごく愛している。愛しているからこそ、あまり手をかけすぎないということを心がけているんです。これはかなり大変なことなんですが、家族会のみなさんはすごく明るい。ラフ(Laugh)じゃなくスマイル(Smile)。回復に導くための方法を知っているので、希望があるからなんでしょうね」
 この報告を受け、自身も依存症者の家族からの相談にのっている田中さんも「借金なども家族だからと代わりに支払うと、なかなか問題が解決しない。自立をしてもらうためにも、突き放すのではなく、手放す。私はこれを“タフラブ”と呼んでいて、ぜひこのような考え方を、依存症で悩む家族に広めていきたい」と決意をあらたにした。

 そして、トークライブは佳境を迎え、会場に訪れた人たちも関心の高い「家族や大切な人が依存症かもしれないと思ったらどうすればいいのか」というテーマとなった。松本先生によれば、自分たちだけで判断をせずに、まずは地域にある「精神保健福祉センター」に相談をすることが大切だという。「精神保健福祉センター」は心の問題に特化した保健所で、本人がいなくても、家族の相談にも対応をしてくれる。また、自助グループや家族会も紹介してくれるという。この話に強く反応したのが高知さんだった。
「実は僕は、最終的には死のうと考えてました。薬物で逮捕された後、ほとんどの人は去りましたが、一部の友人たちが支えてくれた。とてもありがたかったんですが、一方で、自分はこのまま死ぬまで彼らの世話にならなくてはいけないのか、それではあまりにも申し訳ない。だからこそ、死のうと考えたんです。正しい知識がない人間が、憶測で判断をすることは非常に危険なんです」
続く「治療、回復に大切なこと」というテーマで松本先生は、「本人も家族も安心して正直に自分のことを話せる場所」をつくることがなによりも大切だとし、高知さんも「少しでも心配することがあったら、精神保健福祉センターという相談場所があることを思い出してほしい」と力強く訴えた。
 田中さんも「恥ずかしいことを隠すのではなく、まずはオープンにすること」だと述べるとともに、「治療後」にも言及。「回復をした人たちが誇りをもてるような居場所がほしい。アルコールや薬物に再び手を出してしまってもダメな人間だと叩くのではなく、“そこまで頑張ったね”とみんなで応援できるような社会になって欲しい」。
 最後に古坂さんは会場に集まった人たちに、「このイベントで依存症のイメージを変わったという人はどれくらいいますか」と質問をすると、会場にいる人々のほとんどが手を挙げた。古坂さんは「今日みなさんが知ったことを、周りに少しでも広めていただければ、きっと世の中の依存症のイメージも変わっていくはず」と手応えを感じていた。

1月26日(日)13:30~15:30 福岡三越 ライオン広場

今年度2回目のイベントを1月26日(日)13:30~15:30、福岡三越ライオン広場(福岡市中央区)において、以下の通り開催しました。
本イベントは、依存症に対する社会の偏見をなくし、依存症者の回復を応援し社会に受け入れられる環境づくりを目指して実施したもので、福岡では初めての開催となります。

詳しく見る(PDF)

<開催概要>

開催趣旨「回復を応援し、受け入れる社会へ」をテーマに、依存症についてゲストとともにトークライブやミニライブなどを展開し、依存症は回復できる病気であることや、排除せずに受け入れる社会づくりを一般生活者に訴求する。
開催日時2020年1月26日(日)13:30~15:30
開催場所福岡三越 ライオン広場(福岡市中央区)
アクセス市営地下鉄天神駅、西鉄天神駅
参加方法事前申込不要。当日会場までお越しください。
参加費無料