イベント 2020年3月1日 東京

回復を応援し、受け入れる社会へ
2020年3月1日 東京イベント

「依存症」という病気に対する誤解や偏見をなくし、正しい理解を広めていくため、厚生労働省は3月1日、東京・神田明神ホールで「回復を応援し、受け入れる社会へ」という啓発イベントを、新型コロナウィルスの影響を鑑み無観客でインターネット中継にて開催した。
オープニングは、原宿発の五人組アイドル・神宿(かみやど)が「タフラブ」を唄った。この曲のプロデューサーでもある田中紀子さんが「タフラブ」について解説してくれた。
田中さんは、・・・「タフラブ」というのは、もともとは依存症の問題に巻き込まれているご家族に向けて、「境界線をはっきりさせることで問題から抜け出せるよ」っていう愛情の持ち方の提案なんです。家族や恋人同士や親しい友達の間にある色々な問題の解決方法にもなるので、若い人たちにもっと知ってもらって楽しく暮らしてゆくための一つの心の持ち方、愛情の持ち方として広がっていって欲しいな、と思ってこの歌を作りました。
※「タフラブ」のことについて詳しくは、https://www.toughlove.jp

 イベントは二部構成で、第一部は、評論家の荻上チキさんをコーディネーターに迎えたトークショー。アルコール依存症になって自助グループで回復をした経験を持つ、ロックバンドZIGGYのボーカリスト森重樹一さん、アルコールにおぼれる父との思い出を振り返った漫画「酔うと化け物になる父がつらい」の作者である菊池真理子さん、そして国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦先生らに、当事者、家族、専門家という3つの異なる視点から、「依存症」という病気を語ってもらった。

 依存症になったらどうなってしまうのか。トークショーはそんな荻上さんの質問から始まった。松本先生は、「その人らしさが失われていく病気」だと説明。家族や友人など本当に大事な人たちよりも、酒や薬物などが大事になってしまうためだという。そして、世間でよく言われる「本人の意志」「我慢」で克服するというのは大きな間違いだと強調した。
「欲求が何百倍にも膨れ上がって、脳がハイジャックされたような状態になってしまいます。意志の力や我慢でやめられるようなら、それは依存症とは呼べません」
 また、酒や薬を一定期間、強制的に断つことができれば回復するように思われているのも誤解だと指摘。例えば、アルコール依存症になる人は、酒を介してしか人や社会とつながりを持てないケースも多いので、そこでいきなり酒を取り上げてしまうと急に社会から孤立して症状が悪化する危険性もあるという。そのため、まずは自助グループなどに参加して、同じ目標をもつ人々とのつながりを持つことからはじめ、「生き方」を変えて、酒や薬物などではなくヘルシーな対象へ移行をしていくことが大事だと訴えた。

そんな自助グループによって、アルコール依存から回復をしたのが森重さんだ。同じくアルコール依存と闘う友人からの誘いで自助グループに参加してから11年間、断酒を続けている。そんな森重さんに、どのような経緯で依存症になったのかと荻上さんが質問すると、「不安」というキーワードが返ってきた。
「飲むと過去のことが忘れられる。だから、お酒でひどい失敗をするとまた飲む。周囲からはそんなに酒を飲むなんて反省していないと言われるが、反省しているから飲んでしまうんです。この競争社会の中で、他人に弱みをみせることが怖くて、それを覆い隠すために酒にすがっていた」

アルコール依存症が進行した森重さんは、他人にどう思われているかということを極度に恐れ、いつも誰かに見られているのではないかという視線恐怖症になってしまったという。そんな不安を一人で抱え込む一方で、周囲からお酒をやめるようにという忠告や助言にはまったく耳を貸さなかった。
「やめろと言われると絶対にやめない。俺が稼いだ金で飲んでなにが悪い、という感じで、どんどん扱いづらい人物になっていました」
 森重さんの話を受けて、松本先生は、依存症患者に対して厳しく叱責したり、酒や薬物をやめるように説得したりというのは逆効果になると解説をした。

 続いて話題は、依存症の「家族」が抱える問題へ。たまたま友人に誘われて参加したアルコール依存症セミナーで教えてもらった特徴の多くが、亡くなった父に当てはまっていたことに気づいた菊池さんは、自身の体験を基にコミックエッセイを発表。多くの共感を呼び映画化もされた。
「父は四六時中酔っているわけではなく、いきなり豹変する。幼い頃からそういう姿を見てきたので大人はみんなあんな風に酔っ払うものだと勘違いしていました」
 そんな経験をしてきた菊池さんが今、強く思うのは、依存症に対する正しい情報がもっと社会の中にあって欲しかった、ということだという。

「先ほど松本先生が逆効果だとおっしゃっていた”責める”ということを、私は父にやってしまっていました。でも、周囲は”大人はそういうものだから”と父を庇うので、いつも私は悪者でした。それが自分の中で怒りになっていて、そのうち考えることをやめてしまった」
 もし父が「普通」ではなく、アルコール依存症という病気だとわかっていれば違う選択肢もあったかもしれないというのだ。菊池さんの母は自死しており、菊池さん自身もこれまでずっと「生きづらさ」を感じていて、なかなかうまく人間関係を築くこともできなかったという。松本先生は、アルコール依存症の恐ろしさは、本人だけではなく、周囲の家族もメンタルヘルスの問題を抱えるようになることなので、自助グループとともに家族をケアする「家族会」とつながることが重要だと訴えた。

 最後に、荻上さんが依存症回復には何が必要かという質問をすると、森重さんが「同じ経験をした人」とつながりを持つことが重要だという考えを口にした。
「僕は依存症だという病気だと言われた時、すごくホッとしました。でも、それを同じ病気の人に言われるのと、知らない人から説教のように言われるのではまったく違う」
 だからこそ、森重さんはこのような啓発イベントに極力出るようにしているという。かつて自分を救ってくれた「同じ経験をした人」として今度は、自分も誰かの役にたちたいという思いがあるというのだ。

 菊池さんも、森重さんのように「回復をしている人」をお手本にしていけば助かる、ということをもっと社会に知らせていきたいと決意をあらたにすると、松本先生もそのような「回復をしている人」につながるためにも、地域にある精神保健福祉センターなどへ相談をして欲しいと訴えた。
「医療関係者のなかでもまだ依存症を、本人の意志や道徳心の問題だと勘違いしている人がいるので、本人や家族も恥ずかしいことだと思いなかなか相談できない。相談しないと孤立して症状がどんどん悪くなるという負の連鎖が起きてしまう。まずはどんな些細なことでもいいので、専門機関に相談していただきたい」

 依存症という「病気」に対する誤解や偏見をなくして、正しい理解を社会に広めていくには、実際にこの「病気」から回復している人々が、病になってから回復までの道のりを実際に語ってもらうことが最も効果的であるということは言うまでもない。イベントの第二部では、そんな「回復者」たちが一同に会し、このやっかいな病気に立ち向かう方法を語り合った。

 総合司会を務める元NHKアナウンサーの塚本堅一さんと、公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会の代表を務める田中紀子さんからの紹介を受けてステージに現れたのは、NHK「おかあさんといっしょ」第9代目うたのおにいさんとして活動していた、杉田あきひろさん、俳優の高知東生さん、そして元プロ野球選手の清原和博さん。塚本さんも含めてこの4人は2016年に薬物事件で大きな注目を集めた。しかし、それ以外にももうひとつ共通点がある。それはみな「自助グループ」につながっていて、そこで回復をしてきたということだ。

 第一部に続いてトークショーに参加した、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦先生は「自助グループ」についてこう説明した。
「お酒や薬を一緒にやめ続けるために集まって互いの話に耳を傾けるなどの活動をするグループです。もともと依存症は意志が弱い人がなるとか、反社会的な性格の人がなると考えられてましたが、医師がサジを投げたような患者がこの自助グループに参加して回復をしたということが次々と報告されて、今や世界中で広がっています」

そんな松本先生の説明通り、「回復者」の4人も自助グループに入ったことが非常に大きな救いになったと口を揃える。最大の理由は、同じ経験をした仲間とつながることができるからだという。「もっと早くいけばよかった」という高知さんもこのように述べた。
「事件の後、回復するにはこうすればいいんだろうという”だろう論”と知ったかぶりで、すごく自分自身も辛かったが、自助グループで経験のある人と出会えたことで、回復への道が見えた」

清原さんの場合、自助グループで行われるある事が、最初はかなりハードルが高いと感じたという。
「誰にも話していないようなことを包み隠さず話すということはなかなかできませんでした。でも、通っているうちにみなさんも自分と同じ悩みを抱えているんだと気づいた。まさか自分が海外ドラマで観たように、丸くなって手をつないで『平安の祈り』をするなんて夢にも思いませんでしたが、回復という点ではすごく前進しているように思います」

続いてテーマは、社会に対して「依存症」の正しい姿を伝えることの重要さについて。田中さんも4人のような「回復した人」にもっとフォーカスを当てて、バッシングするのではなく、どうすれば回復をしていくのかを伝えて欲しいとメディアに熱望。これを受けて高知さんも「僕たち4人がみなさんにどう見えているかということこそがその答えだと思う」と述べ、依存症に悩む人たちが前に一歩踏み出すきっかけにして欲しいという思いをのぞかせた。

 この高知さんの言葉に象徴されるように、依存症から回復をするためのもうひとつ大きなポイントは「誰かの役に立つ」ということだ。
 塚本さんは依存症予防教育アドバイザーの資格を取って、杉田さんと共に全国の大学などを回って、依存症の正しい知識の啓発に努めているが、その活動が自分の回復にも非常に良い影響を与えていると分析。また、杉田さんも人から求められることが回復の後押しになっていることを述べた。
「長野のダルクに入っていた時、もう二度と人前で歌う機会なんてないと思っていたんですが、講演をさせていただいた長野県の松川村というところで、依存症の人たちの背中を押してあげるようなコンサートをやりませんかと声をかけていただいた。社会の一員として認められて本当にありがたい」

この「感謝」というのが回復を継続していくうえで非常に大きな意味を持っている。高知さんは薬物で逮捕され、大切な人を裏切ってしまった過去と向き合い埋め合わせの準備をしている。そんな弱い自分をさらけだすことを恥としていたが、今では多くの仲間が回復の手助けをしてくれることが本当にありがたいという。また、清原さんも同じで、新型コロナウィルス感染防止の影響で無観客開催にはなったものの、500人以上の人たちが会場に訪れたいと申込みをしていたことに触れて、「自分たちが発信することに、それだけ多くの人たちが関心を持ってくれたことに感謝します」と述べた。

その一方で、「社会復帰」ということですぐに、社会貢献活動などを期待されたり、以前と変わらない仕事を任せたりしてしまうのは回復を遠ざける恐れもある、と松本先生は指摘。この問題を助長しているのが、依存症と「刑期」や「執行猶予」の誤解だ。
「まだ重い罰を与えると依存症が回復するという勘違いをしている人も多いですが、この病気が刑罰で回復しないというのは様々な研究が明らかにしています。実際、法務省のデータでも、薬物依存症の人は複数回刑務所に入っています。これは執行猶予も同じ。執行猶予期間が明けたらもう社会復帰のように思われていますが、それが依存症患者を精神的に追い込んでいる」
 実際、6月に執行猶予期間が終わる清原さんも、「自分の思い描いているものと、世間のみなさんの思いが合わなかったとき、迎え入れてもらえるだろうかと怖い思いがある」と不安を口にした。

 このような誤解や偏見は残念ながらまだまだ社会に残っている、と松本先生は問題提起をした。ある地域のダルクでは、それまでは地域のお祭りにも声をかけられ、スタッフは街で普通に挨拶もされていたが、薬物依存症の人間がいるという話が広まった途端、イベントに呼ばれなくなり、挨拶もされなくなったという。
 また、自身の患者が、薬物事件で有名人が逮捕された際に、テレビに注射器や薬物のイメージ映像が繰り返し流されたのを目にして薬物を再使用してしまった事がある、としてメディア側に「病気」という視点をもって報道して欲しいと訴えた。
「依存症になった人たちを排除したら困るのは実は我々。回復した人たちが社会でどんどん活躍してくれた方が、日本全体にとってもすごくメリットが大きい」
 そんな松本先生のメッセージを象徴するように、トークショー後は、第一部に参加した森重さんが名曲「GLORIA」などを熱唱、続いて杉田さんが唄う「あしたははれる」を出演者全員で応援し、来年も同イベントで回復を確かめ合う誓いをして終了した。

回復している出演者の皆さまの笑顔を忘れずに、次回をお待ちください!

<開催概要>

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