【依存症からの回復】大切なのは人とつながること

 依存症とは、アルコール、ギャンブル、薬物など特定のものをやめたくてもやめられず、社会生活にまで支障をきたす状態のことです。依存性のあるものを繰り返すことにより脳のブレーキにあたる部分が壊れ、欲求をコントロールできなくなってしまう病気です。
 回復するためには依存症患者を孤立させない環境を整えることと、依存症という病気を正しく理解し社会全体で立ち向かうことが大切です。依存症からの「回復者」である、元NHKアナウンサーの塚本堅一さんと俳優の高知東生さんに、薬物依存に陥ったきっかけから回復までの経緯をお話してもらいました。

プロフィール

高知東生

俳優、依存症予防教育アドバイザー
芸能界引退後に覚醒剤と大麻所持の疑いで逮捕。懲役2年執行猶予4年の判決を受ける。その後、自助グループなどに参加し依存症の治療を続ける傍ら依存症予防教育アドバイザーの資格を取得。自らの薬物依存体験に関する講演などを通じ、薬物依存の啓蒙活動を行っている。


塚本堅一

元NHKアナウンサー、依存症予防教育アドバイザー
2003年、NHK入局。京都や金沢、沖縄勤務を経て2015年に東京アナウンス室に配属。2016年に危険ドラッグ「ラッシュ」の製造・所持で逮捕され、NHKを懲戒免職となった。現在は依存症の自助グループに参加しつつ、依存症予防教育アドバイザーとして、依存症関連イベントにて司会や講演活動を行っている。

Q:薬物依存になったきっかけは?

【塚本】 高知さんが薬物に手を出したきっかけっていうのはどういうことだったんですか?

【高知】 田舎から東京に出てきて「よし!俺も自分なりの成り上がりを目指していくぞ!」と思った。

【塚本】 20代前半くらいなわけですよね?それはやっぱり夢もあるし東京で一旗揚げるかみたいな。

【高知】 そんなときに格好良くて仕事もバリバリできて若いのに20代で社長になって、だけど夜も豪快にお酒飲んで綺麗なお姉ちゃん連れている人がいるわけですよ。時代背景がバブルということもあったし、「こういう人になりたいな」とか「カッコイイ!この人!」という人たちに誘われるまま自分から進んで入っていっちゃったっていうか。ただ今振り返ってみると、自分より先人が(薬物使用で)捕まって、それがワイドショーでやってるのを見て、「うわーあいつバカだな」って言いながら使っていたからね俺。

【塚本】 自分は捕まらないっていうことですか?

【高知】 そう。

【塚本】 でも結構そういう人、薬物の依存症の人に多いんですよね。「自分だけは大丈夫」って思っちゃう。

Q:回復への道筋は?

【塚本】 逮捕をきっかけに依存症の治療につながった?

【高知】 僕はたまたま弁護士さんと話したら、弁護士さんが知ったかぶりをせず正直に「ごめんなさい、ちょっと専門分野じゃないので調べておきます」というから、弁護士さんでさえもわからないんだ(と驚いた)。その後たまたまマトリ(麻薬取締官)の聴取があって同じことを相談したんですよ。そしたら捜査官が間髪入れず「国立精神の松本先生がいいんじゃないかな」って。

【塚本】 向こうが勧めてくれたんですか?

【高知】 そう。それで弁護士にそれを言って、留置場から出て松本先生のところにつながって、カウンセリングが始まるっていう感じ。

Q:治療中はどのような気持ちだった?

【高知】 松本先生は俺に「病気」っていうことを(教えてくれた)。
「高知さんは病気です。だからカウンセリングしながらあなたに合わせた治療とスピードでしっかりとやっていきましょう」「先生 俺病気じゃないから。運が悪かっただけだから」って言ったら、「いやいや病気です」「いやだから先生!俺病気じゃないって!」「そうやって言っていることが病気です」って言って。

【塚本】 ちょっと漫才みたいになってきましたね。

【高知】 それが3~4か月すると、気付きがでてくるわけですよ「あれ?なるほど…そうか」と。やっぱり自分の意思でやめることはできなかった。たまたま捕まったことでそれが明るみに出たわけだから、もうその時点で残念だけど病気ですっていう。

Q:治療中につらかった点は?

【塚本】 ずっと一人というか、病院だけにいたわけじゃないですか。そこ結構つらかったですよね?

【高知】 どんどん引きこもっちゃって、もう生きちゃダメなのかなって自分を追い込んだ。このままだったら執行猶予4年持たない。「死んだ方がいいかな」って思っちゃったんですよね。
あまりにもお腹すいて、夜コンビニに勇気をもって買い物に行ったら、信号にお母さんとお子さんがいて、でも子どもだからわかんないだろうと思ったら、俺の方を見て「ハンゾウチーフ」って言うわけよ。自分が出演していた番組ね「逃走中」っていう。「ハンゾウチーフ近頃出てないけどどうしたの?」って。そしたらお母さんが必死で「すみません!」って止めて、でも信号が青になると同時にお母さんが、「高知さんですよね。色々あると思いますけど、応援してますよ。がんばってください」って言われたとき、がんばってくださいねって言われるとは思ってもいないから、青(信号)で家族が進んでいるのを見送ったあと、しゃがみこんで大泣きしちゃったんですよね、うれしくて。

Q:治療に際して一番励みになった言葉や出来事は?

【高知】 もう限界が来てこれダメだという時に、ギャンブル依存症問題を考える会の田中さんが僕のTwitterに入って来てくれて、ぜひ会いませんか?って言われた。「いま人間不信で色々あるので そっとしておいてください」って言ったんだけれども、あの強引な田中紀子さんのパワーに負けてお会いして、7時間くらい語って。

【塚本】 すごいですね。

【高知】 会って第一声が「私も依存症者で~す!」って来たから。自分からいきなり会って分かち合ってくれて、自分を隠すことなく「だから大丈夫よ。仲間なんだから」って言ってくれたとき、必死で肩ひじ張って力を抜くことなくずっといた力が全部抜けて、気が付いたら7時間語ってた。

Q:アドバイザーとしての活動を紹介してください。どのような点に気を付けているか?

【塚本】 高知さんもいま依存症予防教育アドバイザーの資格を取って、周りにいろんな依存症の人がいるというのがわかったと思うんですよ。アルコール依存症、ギャンブル依存症、それこそ薬物依存症も含めてですけれども。

【高知】 正直な話、思っていたよりこんなに(依存症患者が)たくさんいるんだって、これにはまずびっくりした。ストレス解消になるようバランスよくやりながら保つわけだよね。でもだんだん優先順位がおかしくなってきちゃって、それをしたいがために家族や大切なものの順番がどんどんおかしくなるわけでしょ? ということはやっぱりみんなが起こりえる。周りが見えなくなって、どれほどそのことによって家族や大切な人や仲間や友達が悲しみはじめたり離れていったりそういったことに気付かない。でも依存症というものにしっかり俺たちは向き合って、孤独に自分でなろうとする人間を、どれだけもう一回「ストップ」「もういいよ」「自分で自分を苦しめるなよ」って。

【塚本】 それ伝えてあげるのはすごい重要ですからね。

【高知】 一番苦しんでいる、悩んでいる、弱っているときに、本当に冷静に誰とつながるか、誰に分かち合うか。そこで決まる。それだけは言える。俺たちもやってもらって今があるから、更に俺たちがもっと声を大きくして、伝えていきたいと思うよね。

【塚本】 それこそいろんな人がいるんですよ。自分のことを話すのが苦手な人とか難しいよっていう立場の人ももちろんいるんだろうけれども、我々は隠すことがなくなって楽にはなりましたよね。生きやすさという意味では。

【高知】 皆さんに言いたいのはね、「隠し事はないですか~俺たちの前でなら全部言いなさい~楽になるよ!楽になるよ!」

       

Q:視聴者の方へのメッセージ

【塚本】 高知さんと今日お話をして、この1年間でずいぶん変わったことに驚きました。依存症は回復できる病気です。そして大切なのは人とつながることだと思います。

【高知】 依存症は誰でもなる病気です。自分で抱え込まず相談を。

依存症は回復することができる「病気」です。誰もが罹る可能性のある「病気」です。
ご本人、そして家族や周りの皆さん。
依存症かな?と思ったら、ぜひ依存症の相談窓口や専門医量機関、自助グループに問い合わせてください。必ずあなたの力になってくれます。

※ 言い回しや重複など動画の発言とは一部異なる記述となっています。