青木さやかさんが訪問
ギャンブル等依存症の回復支援サポート施設「東京グレイス・ロード」へ

 タレント、女優として活躍する青木さやかさんが、過去にパチンコで多額の借金をしていたことを告白して話題となったことをご存じの方も多いだろう。そんな青木さんがギャンブル等依存症に向き合う当事者の回復支援をサポートする施設「東京グレイス・ロード」へ取材に訪れた。

利用者のサポート体制が充実 東京グレイス・ロード

 グレイス・ロードは、2014年にギャンブル等依存症の回復支援施設として山梨県に開設された。青木さんが訪れた東京・西新宿にある「東京グレイス・ロード」は、就労支援に特化した施設としてスタートしたが、オンラインギャンブルの広がりなどに伴い、利用者が増加。現在は日中の回復プログラムを実施する「グレイス・ロード東京センター」と、スタッフ5人を含めた38人が寝泊まりをし、日常生活を送る「ナイトケアハウス」が中野区にある。ナイトケアハウスの利用者はそこから東京センターに通う。
 東京センターでは、グループミーティング、抱えている問題をシェアして感情の解決を目指すエンパワメントグループミーティング、自助グループへの参加という三つの柱を中心としたプログラムが行われている。

 基本的には13カ月、脱ギャンブルに取り組む期間があり、そこからアルバイトをして自立のためのお金をため、入所してから2年程で退所するのが一般的だ。その他のプログラムには、グレイス・ロードを出て自立した人の話を聞くものや、料理やスポーツ、レクリレーションのほか、近所の神社の清掃などの地域活動も行っている。また、依存症治療に特化した提携医療機関での依存症回復プログラムへの参加など、利用者のサポート体制も充実している。

東京グレイス・ロード職員より、施設紹介を受ける青木さやかさん
グループミーティングで「ギャンブル」に関する体験談を語る

グループミーティングで「ギャンブル」に関する体験談を語る

 東京グレイス・ロードでは、毎日グループミーティングが行われる。この日は7人のメンバーに加え、青木さんも同席した。ミーティングは、グレイス・ロードが作成したリーフレットの読み合わせから始まる。リーフレットには、グレイス・ロードは依存症から回復したいという仲間の集まる場所で、ギャンブルをやめたい仲間の手助けをすること、どんな依存症者でも必ず回復できるということ、この場で話されたことは外部には秘密であることなどが書かれており、進行役が一つ一つ読み上げていく。

 リーフレットの読み合わせが終わると、分かち合いの時間となる。進行役が決めたきょうのテーマは「ギャンブル」。準備ができたメンバーから話を始めた。ギャンブルを始めたきっかけ、どんなギャンブルをしてきたのか、なぜ夢中になっていったのか、その時に抱えていた不安な気持ち、消費者金融などからの借金、大事なものをなくしてしまった過去が赤裸々に話された。また、グレイス・ロードなどの相談先にどのようにつながったのか、今現在の気持ちなどが語られた。進行役に促され、青木さんも自らがパチンコやマージャンにのめり込んでいた当時の気持ちなどを話した。

青木さんは依存症当事者の体験談に真剣に耳を傾けた

 このように、依存症回復施設や自助グループのミーティングでは、同じような悩みを抱えている人が集まり、自身の経験や問題について語り合う。ただし、「言いっ放し、聞きっ放し」が原則で、誰もアドバイスやコメントはしない。横やりが入らない環境の中で自分の問題と向き合うことや、他の参加者の語りにしっかり耳を傾けることで、回復につながるとされている。

相談先や回復施設でつらい気持ちを分かち合うことが重要

 ミーティング終了後、青木さやかさんと施設の利用者・ダイさんに話を聞いた。

―ギャンブルにのめり込こんでしまったとき、家族や友人などに相談しましたか?

【ダイさん】 ギャンブルや借金は恥ずかしいことだと思っていたので誰にも相談しませんでした。今にして思うと、もし相談する人がいたら、回復施設や自助グループに早くつながれたかなと思います。

【青木さん】 私も相談していません。周りもみんなやっていましたし、まずいと気付きながら後回しにして目をそらしていたのかもしれません。

―東京グレイス・ロードでできることとは?

【ダイさん】 私はギャンブルで借金を抱えるだけでなく、当時勤務していた職場の売上金をギャンブルに使ってしまいました。大切な人間関係や社会的地位などを失ったことで、問題を認めて助けを受け入れざるを得ない、いわゆる「底つき」という状態になりました。家族から施設に行くことを勧められ、会社をクビになった次の日に東京グレイス・ロードにつながりました。
 こんなにギャンブルに狂って、家族に迷惑をかけているのは自分だけだろうと思っていたのですが、東京グレイス・ロードや自助グループには、私と同じような体験をしている人がたくさんいました。自分だけじゃないのだと思えたことは、ここに来て良かったことの一つです。

【青木さん】 グループミーティングで依存症当事者の皆さんのお話を聞きましたが、とても共感することが多かったです。東京グレイス・ロードは、依存症当事者が気持ちを分かち合えて、回復しようと努力している仲間と一緒にいられる場所。そうした場所があることはとても重要だと思いました。  私は、たまたま芸能界で売れて忙しい時期が長くなり、パチンコから抜けられただけです。もしそうでなければ、「やばいやばい」と思いながら雀荘とパチンコ屋を行き来して、やめたいけれどやめられないという状況が続いていたでしょうね。
 もし自分が依存症かもしれないと思っていても、こうした施設があることを知らない人が多いでしょうし、知っていても、自分が依存症なのだと認めて、ここに来る勇気や覚悟がある人はなかなかいないかもしれませんね。

【ダイさん】 ほとんどの人が最初は抵抗があると思います。しかし感情を整理できる場や、自分の気持ちに共感してもらえる場はとても貴重です。

―依存症に対してどのように理解が広まってほしいと思いますか?

【ダイさん】 依存症は個人の問題で、性格や甘えだという認識の人がいまだに多いと思います。誰でもなる病気という認識を持っていただきたいですが、私たちだけの力では難しいため、行政の力も大切です。また、青木さんのような有名人の方たちが啓発してくださっていることも大きく、勇気をもらっています。

【青木さん】 何らかの依存を抱えている人はとても多いと思います。依存症は特別な病気ではなく、誰でもなるかもしれないということを理解してもらいたいですね。

依存症当事者と青木さんで啓発の重要性について話し合う

やめたいのに、やめられない そんな気持ちを話せるような社会に

 東京グレイス・ロードを訪れ、グループミーティングへの参加、施設利用者との対話を行った青木さやかさん。取材を振り返り、利用者がもう二度と周りの人を傷つけたくないという気持ちを抱えながら自身の依存症の問題を認め、回復しようと頑張っていることがよく分かった、と話した。
 青木さんは現在ギャンブルから意識的に離れているが、ギャンブルにのめり込んでいた当時は、この日話を聞いた利用者よりたくさんのお金を使っていたかもしれないという。「私だって危うい状態かもしれない。そのことを忘れてはいけない」と認識を新たにした。
 また、これまで依存症の当事者と接する機会があまりなかったが、この日の取材をきっかけに、依存症の当事者はとても多いことを実感したそう。さらに、「ギャンブルもお酒も、程度の差はありますが、誰でも依存症になり得るのではないでしょうか。やめたいのにやめられない。そんな気持ちを、誰かに話せるような社会になればいいなと思う」と、社会全体が依存症への理解を深める必要性を改めて語った。

本記事は「時事ドットコム」(2024年3月26日公開)にも掲載されています。
提供:厚生労働省「依存症の理解を深めるための普及啓発事業」事務局

青木さやかさんプロフィール

タレント・女優
1973年生まれ。タレント、俳優、エッセイスト。名古屋学院大学外国語学部卒業。名古屋でフリーアナウンサーとして活動後、上京しお笑い芸人になる。「どこ見てんのよ!」のネタがブレークし、バラエティー番組に多数出演。2007年に結婚、12年に離婚。17年と19年に肺腺がんの手術を受けた。現在は中学生の娘を育てながら、テレビ番組、舞台などで活躍中。著書に実母との確執や半生をつづった『母』(中央公論新社)のほか、『厄介なオンナ』(大和書房)、『母が嫌いだったわたしが母になった』(KADOKAWA)、『50歳。はじまりの音しか聞こえない』(世界文化社)などがある。

東京グレイス・ロード
(http://www.gracelord-tokyo.jp/)

 ギャンブル等依存症からの回復支援事業施設。ギャンブル等依存症当事者にグループミーティングを中心とした「回復プログラム」を提供し、自助グループ(GA)へ通う習慣付けをすることによって、将来の社会的自立を目指す。