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サポーターが行く

第二弾 川崎ダルク家族会

「川崎ダルク家族会」を訪問

依存症者を抱える家族が集まる「家族会」という自助グループが全国に点在している。依存症についての正しい知識を学び、問題を互いに話し合うことで、依存症との適切な関わり方を考えていくことを目的としたものだが、残念ながら、依存症の家族の中でもまだ知らないという人もいる。あるいは、存在は知っているが参加するまではハードルが高いという家族も少なくない。

そこで、依存症の啓発サポーターを務める古坂大魔王さんが、民間の薬物依存症リハビリ施設である川崎ダルクの家族会を訪問し、回復を目指す家族にとって、家族会とはどのような存在なのかということを聞いてみた。

 川崎ダルク家族会は、毎月1回開催されていて、入所や通所をしていなくても家族や友人が依存症である人ならば誰でも参加できる。主な活動の内容としては、専門家を招いた勉強会や、自分自身のことを順番に話し、参加者の話に耳を傾けるグループミーティングである。そんな家族会に今回、古坂さんは初めて参加。2時間30分にも及んだミーティングに黙って耳を傾けることで、これまで自身が抱いていた「家族会」のイメージが180度変わったという。
「申し訳ないのですが、家族会というとどうしても辛い、悲しい体験をしている方たちが集まって、お互いに慰め合っているような場所というイメージがありました。でも、今回みなさんの話を聞いてみたら、それが間違いだとわかった。みなさんがすごく明るくて前向きで、自分のことをなんでも話している。依存症に対する知見を互いにアップデートし合っているような印象で、まるで運動部のような元気の良さを感じました」

そんな家族会の明るさ、元気の良さはどこからくるのか。興味を持った古坂さんは、参加者たちに、「みなさんにとって、家族会はどんな存在ですか」という質問を投げかけた。まず答えたのは、薬物依存症の息子をもつ女性。ひとりで思い悩むうちに、ネットでダルクの存在を知って、藁をもすがるような思いでやってきたという女性は、ダルクで依存症というものが回復のできる病気だということを説明されてすごく救われたというが、そこに加えて、家族会によって“希望”を与えられたという。
「家族会に出て本当によかったのは、”こんな悩みを抱えているのは自分だけじゃないんだ”とわかったことです。これまで息子のことを親戚や友人にも相談できなくてひとりで抱え込んでいたのですがここにきて全部吐き出せました。また、ここには自分と同じような経験をしている人も多いので、いろいろなアドバイスをもらうこともできるのがすごくありがたかったです」

女性の話を聞いた古坂さんは、「どんなことでも話せる、秘密のない関係性の先輩がいるということが、みなさんをこんなに明るくしているのかもしれませんね」と自分の考えを述べると、参加者たちは大きく頷いた。その中でもひときわ「先輩」という言葉に反応をしていたのが、依存症の夫を支えている女性だった。
川崎ダルクにつながる前、薬物の再使用を繰り返す夫に対して、妻としてどう向き合えばいいのかわからなかったというこの女性は、家族会に参加してほどなくして、目の前がパッと開けるような体験をしたという。
「今日もいらっしゃっている先輩から、依存症を本当に克服するには、依存していた期間の3倍はかかりますよ、と言われたんです。夫は十代から薬物をやっていてもう20年。その3倍と計算したら、『あ、もう死ぬまで無理だ』と思った。それで踏ん切りがついたというか、長く付き合っていく覚悟がつきました」
「旦那さんと別れるという選択はなかったのですか?」という古坂さんの質問に対して、女性は、「大切な家族が病気になったからといって見捨てないですよね」と屈託のない笑顔を見せた。この女性にとって家族会とは、新しい人生の目標を教えてくれた場所なのかもしれない、と古坂さんは思った。

「私の場合は、ダルクと家族会に参加することで、自分自身が抱える共依存という問題に向き合うことができるようになりました」
 古坂さんに対して、そのような思いを訴えたのは、女手ひとつで育て溺愛してきた息子が精神薬の依存症になったという女性だ。
息子が薬の再使用を繰り返すことに心を痛め、一時は2人で命を絶とう、というところまで追いつめられた女性は、相談に訪れたダルクで、自分たちが「共依存」という関係にあると指摘される。共依存とは、「相手(依存症者)に必要とされることで自分の存在価値を見いだすためにそのような相手が必要であるという、自己喪失の病気」(厚生労働省 e-ヘルスネット)。つまり、女性は息子を支えていたつもりが、過度に手を焼きすぎて、依存症の維持に手を貸していた側面があったのだ。
「言われてみると確かに思い当たる節がありました。息子からお金の援助を求められると、無条件で手を差し伸べていました。連絡がなくなると、どこかで死んでいるんじゃないのか、誰かに迷惑をかけてないかと心配して何も手がつけられませんでした」

自身の問題に気づいたものの、どうすればいいのかわからなかった女性に、進むべき道を教えてくれたのが、やはり家族会の「先輩」だったという。これまで共依存だったという人もいることで、経験者として有益なアドバイスをもらえたというのだ。
「例えば、行方不明になった時、みなさんから『何かあれば警察か病院から連絡がくるから大丈夫よ』と言われたんですね。最初は“いったい何が大丈夫なの”と思いましたが、みなさんの経験を聞くうちに、連絡がないのは元気にやっているに違いない、と少しずつですが、気持ちに余裕がもてるようになったんです」
この女性以外にもたくさんの参加者たちから、家族会に参加することでもたらされた「変化」についての体験談を耳にした古坂さんは、このあたりにこそ家族に依存症患者をもつ人が家族会に参加する大きな意義があるのではないか、としてこのような感想を述べた。
「僕らが人生で向き合う問題が、それぞれ違っているように、依存症回復への道のりもひとつとして同じものはない。一人一人みんな違うんですね。ただ、道のりは違っていても、回復していくために必要な“武器”はどこか共通している。家族会というのは、その“武器”をみんなで共有して磨いていく、回復に向けて互いに高めていく場所なんだなと感じました」

そんな古坂さんの「回復のための武器」という指摘に1人の女性が大きく頷いた。川崎ダルク家族会だけではなく、日本全国に足を伸ばして、各地の家族会にも参加経験があるという女性である。
「回復のための“武器”ということで言えば、いろんな家族会に積極的に参加してもらいたいですね。専門施設の人たちからはよく”回復は足で稼げ”と言われます。ネットで情報を調べて1人で悶々としているのではなく、いろんな家族会につながってみる。そうすると、必ず自分の置かれている状況に対して何かしらの答えを持っている”先輩”に出会う。依存症の家族のほとんどは、この病気を恥じたりして、親戚や友人にも隠してたった一人で悩んでいる。依存症の家族会は全国にたくさんありますから、まずは足をつかって、そこに参加してほしい」
ちなみに、”足”で稼いだ次の段階としては”耳と口で稼げ”ということになるという。これはつまり、つながった”先輩”の体験談に耳を傾けるとともに、自分がこれまで抱えてきた悩みを吐き出していくことが、回復につながっていくというのだ。
その後も、さまざまな人たちとの対話を交わした古坂さんは、最後に参加者たちに向けて、このような感想と感謝を述べた。
「みなさんがこんなにも明るくて、力強いのはどうしてだろうと不思議に思っていたのですが、それはここから回復していくという希望があるからだということがよくわかりました。ただ、社会の中ではまだ私がかつて抱いていたように、家族会を“嘆きの会”のように誤解をしている人も多い。依存症の正しい理解とともに、家族会というもののイメージも変えていく必要があることを強く感じました。今日はありがとうございました」